(いと)とは、天然繊維化学繊維の両方、もしくはいずれか一方の繊維を引き揃えて、撚りをかけた物のことである。糸を造ることを紡績、これを 生業 としたものを「 製糸 業」「紡績業」という。工業的に撚りをかけたもののことを専門的には撚糸(ねんし)という。 フィラメント糸 や クモの糸 の様な紡績とは無関係な長細い形状の物も含めて糸と呼ぶ。

英語では「縫い糸」は「スレッド」(: thread)、「紡ぎ糸」は「 ヤーン 」(: yarn)、 「たこ糸」「楽器の弦」は「ストリング」(: string)、「釣り糸」は「ライン」(: line)と呼び方が異なる。

概説

自然界から得られる繊維は、ウールや 麻 のように短い(短繊維)ので、これをまとめてねじることにより長くつなげ、扱いやすい太さとしたものが糸である。複数を撚り合わせることで強度も増す。ポリエステルのようにもともと長い繊維(長繊維)も2本以上の繊維をねじることで強度が増すため使われる。も糸の材料として使われており、ルイ・ヴィトン社やランバン社にて紳士服に使用される。

繊維を撚り合わせることで太く長くなり、様々な用途に使えるようになる。糸にするために、材料となる繊維を長く伸ばすことを「績む(うむ)」、撚り合わせて糸にすることを「紡ぐ(つむぐ)」という。細さで呼びが使い分けられ、最細が糸、より太いものはロープ等と呼ばれる。

他方、クモの糸や絹糸などは最初からそれなりの長さがあるので、そのまま糸と呼ぶ。ただし絹糸も実用に供する場合は複数を撚り合わせる。

織物などの場合、その素材となる糸は、長ければ長いほどよい。逆に 繕い物 などの際には長すぎる糸は絡まるなどのトラブルを起こしやすい。繊維を糸に加工するのは結構やっかいなことなので、普通はできるだけたくさんまとめて作り、絡まないように糸巻きなどに巻き付けて管理する。繕い物などの場合はその一部を切り取って利用する。

繕い物は日常における衣服のメンテナンスとして重要であり、そのための道具である糸とは必ず一纏めに扱われる。童話『眠れる森の美女』で美女の指に刺さったのが糸を作るための道具、紡錘(つむ)である。

植物からの糸

植物から得られる糸は、原則的には細胞壁からなるものである。表面のとして得られるものは、表皮から突出する細胞の細胞壁であり、内部から得られるものは、維管束や皮層にある線維細胞のそれである。これらが特に長く発達する植物のそれが糸として利用される。

動物からの糸

動物から得られる糸は、大きく二つに分かれる。

一つは動物の体の一部が糸状になっているもので、例えば羊毛がそれである。

もう一つは体内から作られた化学物質が糸の形をなすものであり、 絹糸 やクモの糸などがこれにあたる。

動物が使う糸

動物自身が糸を使う例も多々ある。糸はを作る際や動物体を基質に固定するなど、それぞれに用途がある。

代表的なものを以下にあげる。

  • 昆虫
    • チョウ目・ハチ目アミメカゲロウ目幼虫が口から。を作る際などに用いる。
  • シロアリモドキ目 :前足から。
  • クモ綱
    • クモ目 :腹部末端の出糸突起から。
    • カニムシ目・ダニ目(ハダニ科など):触肢から。
  • 二枚貝類:足糸を持つ例がある。
  • ハナギンチャク刺胞の糸を巣作りに使う。

糸の単位

糸の種類

手縫い糸とミシン糸では、よりの方向が逆になっている。

  • 手縫い糸
    • 絹糸
  • ミシン糸
    • スパン…短繊維をより合わせて作られる一番一般的な糸。ポリエステルで作られている物が多い。
    • レジロン…ニット用の糸。主に本縫いミシン用に使われる。ナイロン製が多い。
    • ウーリー…ニット用の糸。主にロックミシンのルーパー糸として使われる。ナイロン製が多い。
    • カタン…綿の糸
  • 刺繍糸…撚りが甘く、光沢を持つものが一般的である。
    • 25番…一般的な刺繍糸。
    • 5番

用途

衣料

糸の最も一般的な使い道として、衣服などの衣料がある。 衣料の原料となる織物は経(たて)糸と緯(よこ)糸を組み合わせて作られる。また布片をつなぎ合わせて衣服を作る場合にはそれらを 縫い合わせ る必要があるが、そのためにも糸は使われる。布でなく皮革などの縫い合わせにも使われる。

楽器

弦楽器の発音体()は糸状をしており、やはり「糸」と呼ばれる。この糸はピアノ線の様に繊維と無関係な糸状の金属の場合もあれば、動植物などに由来する 紡績糸 である場合もある。転じて三味線胡弓琵琶など弦楽器の総称としても「糸」の語を使う。 日本の管楽器でできているので、糸と合わせ音楽のことを「糸竹 (いとたけ) 」とも言う。また小唄などでは、三味線パートのことを「糸」とも言う。原料はで、春を使い、撚り合わせて糊で固める。三味線の糸一つをとっても様々な太さがある。

釣り

伝統的に釣り糸として使われてきたものに絹の紡績糸である テグス がある。今日ではナイロンなどの化学繊維の釣り糸が一般的。

人形劇

操り人形を上から吊るし上げて動かすのにテグスが用いられる。

凧揚げ

を操るのに凧糸が用いられる。

料理

主に 焼豚 やハムなどを作る時、肉が崩れたりするのを防ぐため、凧糸で肉を縛ってから調理する事が多い。

医療

糸を使った慣用句

物事を結びつけるという意味が込められる。

  • 糸目を付けない。
  • 糸を引く。
  • 糸の切れた凧。
  • 赤い糸で結ばれている。

糸は細くて長いため、往々にして互いに絡み合い、もつれてほぐせなくなる。その場合、無理に引っ張るとさらにからんで、結び目になったり切れたりするから、ゆっくりと丁寧にほぐさなければならない。

  • もつれた糸をほぐす
  • 記憶の糸を辿る。
  • 糸口

ギリシャ喜劇の『女の平和』では、主人公が戦争を女たちに任せよ、と主張、戦争の原因となった諍いを解消することを糸をほぐす作業にたとえて説明している。


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